表現の世界で生きるプロフェッショナル一人ひとりに宿る〝美〟の哲学に迫る。
美しいものに関わりたい、
その想いに突き動かされ

名前 村吉由紀 むらよしゆき
肩書 衣装部(衣装スタイリスト)
Instagram@murayoshi_yuki
1978年 熊本県八代市で誕生。
1996年 ヒロ・デザイン専門学校(熊本県)アパレルビジネス科入学。
1998年 専門学校卒業後、上京。衣装スタイリスト、島津由行さんの三番弟子に。
2003年 フリーランスの衣装スタイリストとして独立。一般誌中心に活躍する。
2006年 美容師、佐藤典和さん(現『Z SALON』)の依頼で、初めて作品撮りの衣装を任されたことをきっかけに、クリエイションの現場で活動するように。結婚。
2009年 第一子出産。
現在 美容師による作品撮りに限らず、ブランド案件など幅広く活躍する。
“美”を形にする、5つのヒント
Q1 あなたにとっての“美”とは?
じっとさせてくれないもの。
Q2 仕事で大切にしていることは?
「こんなことやりたい!」を一緒に行うこと。
Q3 創造力の源は?
「何コレ!?」「かわいい!」「やってみたい!」という好奇心。
Q4 センスを鍛える方法は?
人に会うこと。
Q5 ハマっているモノ・コトは?
昔も今も変わらず、ず~っと日暮里繊維街(笑)。
じっとしていられないほど
心の奥から突き動かされるもの、
それが、私にとっての“美”

昨今の美容コンテストで強く求められているのが、“ヘアデザインと衣装の融合性”。作品の世界観に深みをもたせる重要な要素として、衣装の役割が注目されている。そんなクリエイティブの現場で美容師たちを支えるのが衣装スタイリスト、村吉由紀さんだ。彼女が追求する“美”の在り方を探ってみた。
有名スタイリストの元へ押しかけ、三番弟子に
「高校時代、進路に悩み、偶然手にしたデザイン専門学校のパンフレットがきっかけとなり、スタイリストの道へ。幼い頃、引っ込み思案だった私が、かわいいスカートをはくだけで自信をもてた経験から、“服”に関わっていきたいと思ったんです。専門学校では、仕入れや販売といった商業的な側面を学んでいたのですが、有名スタイリストの島津由行さんが学校に講演にいらしたとき、『東京に来ないと勝負にならない』と言われ、その言葉に導かれるように上京。押しかけて三番弟子にしていただきました(笑)。師匠の元で雑誌、広告、ファッションショーとさまざまな現場で幅広い経験を積むことができました。しかし、何度も怒られ、『二度と来るな』と言われましたが、祖父も父も大工という家では暴言こそが愛情。どんな言葉も愛情と捉え、次の日には笑ってアトリエに通う毎日。最高の5年間を過ごさせていただきました」

美容師とつくりあげるクリエイションに魅了され
「独立後も引き続き、雑誌や広告の仕事をしていましたが、なんというか、ちょっと物足りなかったんです。スタイリングといっても、既存の服を組み合わせるだけ。服をどう売るかが求められる世界。もっと自分の個性を発揮できる場がないかとモヤモヤしていたとき、佐藤典和さん(現『Z・SALON』)に作品撮りを手伝ってほしいと言われたんです。美容師さんの思い描く世界を一緒につくりあげることがとても楽しく、しかも喜んでくださる姿を間近で見ることができる現場は本当に魅力的でした。どうやって理想の形に近づけるか、リメイクから始め、服づくりを行うように。基礎知識は必要に迫られて学びましたが、具体的なことはすべて独学です。一時期、専門学校の夜間部に通おうかと考えましたが、友人のパタンナーから『今の自由な発想がなくなるからやめたほうがいい』と止められました。今では、その友人が先生役として、服づくりのいろはを教えてくれています」
〝美〟とは形ではなく、心を動かすきっかけ
「私にとっての“美”とは、『じっとさせてくれないもの』。かつて、私が洋服に勇気をもらったように外の世界に飛び出す気持ちにさせてくれる、そんな存在です。その原動力は〝好奇心”。美しいものに関わりたい、見ていたいという衝動が私を突き動かします。美容師さんに『こんなことやりたい』と無理難題を投げかけられるほど、美への執着が湧き上がってくるのです。クリエイションの作品づくりに携わって19年ほど。好奇心が尽きることのない世界ですね」
“美”とは形ではなく、心を動かすきっかけだと話す村吉さん。好奇心を原動力に、これからも多くのクリエイターたちに寄り添っていくのだろう。


三都杯2025でヘアショーを行った『uvrir』長田倫子さんの衣装。ぼんぼりをイメージしたスカートを披露。
My Work
“テンサイズ”の衣装も

2019年、内田聡一郎さんと浦 さやかさんによるクリエイティブユニット“テンサイズ”のヘアショーでの衣装を担当。美容師の記憶に残る衣装の多くを手がけてきた。
My Strong Point
ネットワークが強み

アシスタント時代から続く仲間のネットワークが強み。わからないことは聞く、そのスタンスが村吉さんの衣装のおもしろみ。画像はアシスタント時代の村吉さん(左上)。
My Partner
ヘアアーティストの夫から助言をもらうことも

村吉さんの夫は、ヘアアーティストのハヤシルイさん(チーム マニフィック)。美容師の衣装を手がけるに当たり、行き詰まったときなどアドバイスを受けることも。
photo:Sano Kazuki(CHIYODA STUDIO) text:PREPPY