先月から始まったヘアメイクアップアーティスト進藤郁子さんの今連載。「色」をテーマに1人のモデルでふたつの女性像を表現する。「マジックタッチ」第2回は「ピンク」。女性らしさの象徴ともいうべき色を、いかに発想をふくらませ、着地させるのか。そのアプローチ法をお届け!
お茶目なピンクと媚びないピンク
色から連想するディテールを言語化
「ピンク」の2つのイメージを固め、具体的なビジュアルをつくるための設計図を描く。
お茶目なピンク

イメージ
フレッシュを起点に「ルーキー」を発想。そこから「スクールガール」「スポーティ」が浮かび上がる。
形
ラインでしっかり形づくるよりもふわふわと内側から広がり、境界線も曖昧に。
質感
上気するようなほてり感を主役にしつつ、相反するきらめき感をひとさじ。
色味
初々しさを表現する淡いトーンを主体にコクのある色を加味。
媚びないピンク

イメージ
グラフィックデザイナー・仲條正義氏※の作品世界。貫かれる大人の遊び心。
※グラフィックデザインを領域に時代を映し出す作品は高い評価を得て、さまざまな分野で活躍。資生堂の企業文化誌『花椿』のアートディレクションは40年以上務めた。
形
エッジがしっかり立っている。が、直線的な表現ではなく曲線を描く。
質感
陰影で引き締め、ツヤを引き立てる。対比するテクスチャーを調和させる。
色味
蛍光色とブラック。コントラストを効かせ、グラフィカルな表現を狙う。

具体に抽象を合わせることで「余韻」が生まれる。
作品をつくるうえで大事にしているのが、女性像です。どんな女性かを表すには「具体的」な要素だけでつくろうとしてもダメ。「抽象的」なもので発想を広げるというプロセスが欠かせません。たとえば、ジオメトリックなカットをスリックバックにしてウェットな質感に仕上げたら、確かにクールで強い作品になるかもしれません。でも、まとまりすぎてしまい、奥行きを感じられないまま終わってしまう。そうならないためにも抽象的なフレーズを思い描き、ヘアやメイクでの表現に落とし込んでいく。すると、世界観に「余韻」が生まれてくるんですよね。
では、作品としてどう着地させるかというと、まずイメージをどんどんふくらませるところから。今回はフレッシュな女の子とモダンな女性というふたつの女性像が出発点でした。それぞれにキーとなる要素を考え、ポイントを絞り、バランスを少しくずし、抜けを出す。そうして必要なものを残すように「引く」とグッと洗練されたムードに仕上がります。一方で素の部分を残すのも大切。リアルを感じさせるのも今の時代に外せないキーワードだと思います。
今回のモデルのBefore
シミが少なく明るい印象の肌。ブルーベース。ひとつのイメージに偏らない無垢さが魅力。

進藤流メイクのヒント
01 新しいバランスとの出会い
曖昧さ、相反するものを楽しむ
たとえば、フレッシュさを求めるのにツヤではなくマットな質感にする。モダンなイメージをつくるのに直線ではなく柔らかい丸みを描く。あえて相反する要素を取り入れることで、どっちなの?といういい曖昧さが生まれ、新しい表現へとつながります。予定調和ではないバランスに出会えるのも、こうした作品づくりの醍醐味ではないでしょうか。
02 リアルと今の時代感
素の状態をどこかに残す
クリエイティブに振り切った撮影とは異なり、ナチュラル系&リアリティブ系のメイクでは、モデルの素の状態を残すというのも今、欠かせない視点です。Case1の「お茶目なピンク」はチークを、Case2の「媚びないピンク」はアイメイクをポイントにしているので、眉は両方ともあえてそのまま。リップも最小限のメイクにとどめてリアルさを残しています。
03 ファッションとの調和
洗練させるための引き算
作品を洗練させるために、ファッションとのバランスにはかなり気を遣っています。存在感のある服ならヘアもメイクもミニマルに抑えたり、シンプルな服に対してはどちらかに主張を持たせ、そのぶんどちらかを引いたり。引き算は不可欠ですね。もしどうもしっくりこないというときは、思い切って引いてみるのはとても有効。ぜひ試してみてください。
process お茶目なピンク
ほてり感を表す2色のチークで初々しく

1.ラベンダーの下地で全体をトーンアップ。ファンデーションではなく下地で明るく見せることで素肌が明るい印象をつくる。ラベンダーで黄ぐすみを払う。
2.特にくすみの気になる目のまわりと小鼻、口角は同じ明るさの同系色のコンシーラーとファンデーションを混ぜ、小さめのブラシでのせてカバーする。
3.青みピンクのリキッドチークをほお骨のいちばん高い位置からこめかみ、眉尻の上にのせる。指の腹でトントン叩いてぼかし広げる。

4.続いて、イエローオレンジのクリームチークを3の下にのせる。指の腹でたたいてキレイにぼかし込む。
5.チークをのせた範囲にラベンダー寄りのフェイスパウダーを、大きめのブラシに取ってふわりとのせる。
6.青みピンクのパウダーチークを小さめのブラシに取り、鼻のつけ根にのせる。

7.6と同じチークをあご先にもちょんちょんとのせる。
8.メタリックなピンクのアイシャドウを細いチップに取り、目尻の上にふわりとのせる。
9.8と同じピンクのアイシャドウを下まぶたの黒目の下にもピンポイントでのせる。

10.下まぶたの目頭にキラキラとした光を挿す。シルバー系のラメのシャドウを細いブラシに取り、ふわりとのせる。
11.色味のないリップグロスを上下の唇の中央に塗り、潤い感とラメ感をプラスする。

FINISH
process 媚びないピンク
ピンクと黒を曲線で効かせ、抜け感を演出

1.顔の中央部のみ、素肌に近い色のファンデーションをのせる。
2.目尻の辺りまで軽くすべらせるようにぼかし広げる。水で濡らしたスポンジを使うと、薄づきでキレイな質感に仕上がる。
3.シェーディングとして2トーン程度暗めのファンデーションを使う。薄づきのシアーなタイプを選び、2と同様、濡らしたスポンジで輪郭に広げる。

4.ノーズシャドウの位置にマット寄りのくすみピンクのチークをブラシに取ってのせる。
5.下まぶたにピンクのマルチカラーペンシルでアイラインを引く。
6.5と同じピンクのペンシルでアイホールを囲むようにラインを引く。グルッと囲むのではなく、線の太さや濃さに強弱をつけ、引かない部分もつくる。

7.ブラックのアイライナーを筆に取り、右の目尻のピンクのラインを縁取る。
8.左目は目頭のみ。7と同じブラックのラインで縁取る。
9.ボディペイントにも使える水性の蛍光ピンクの水溶きシャドウを筆に取る。ピンクのラインをなぞったり、縁取ったりするように所々にのせる。

10.黒のメタリックなラインストーンをつけまつ毛用の糊を使い、好きなところに貼りつける。
11.透明のリップグロスを指の腹に取り、ほおの高い位置にトントンのせてハイライトに。最後に上下のリップの中央にものせる。

FINISH
お茶目なピンク

Make-up
・もともとの素肌から美しいと感じさせる、軽やかな肌づくり。
・ほてりを表すピンク、甘すぎを防ぐイエロー。2色のチークが引き立て合う。
・メタリックなピンクとグリッターを挿し、ふんわり感とのギャップをイン。
Hair
・外国人キッズのようなふわふわアフロヘアから想起。
・ボリューミーなカーリーヘアでいい意味で野暮ったさ、おぼこい雰囲気を出す。
・半ひねり入れて10㎜の極細アイロンでリッジをつけ、くずす。

媚びないピンク

Make-up
・狙いはモードよりもモダン。たおやかな曲線がこなれ感を醸し出す。
・グラフィックな表現で洗練されたピンクへと昇華。
・スーツスタイル&ウェットヘアのハンサムさをメイクで際立てつつ抜く。
Hair
・存在感の強いセットアップにあえて三つ編みを合わせ、新しいバランスを。
・前髪を立ち上げ、ここにも曲線を効かせる。
・三つ編みといえども、ほっこりではないグロッシーさで調和させる。

photo:Sakuma Takeshi text:Sugiura Akiko styling:Kawakami Maruri