2月23日まで東京芸術劇場 プレイハウスで、2月28日~3月2日には梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで上演される舞台『ピーターとアリス』。MP編集部はメンズプレッピー3月号で取材をさせていただいた簡 秀吉さんが出演される舞台を一目見ようと東京芸術劇場へ向かった。

客席や張り出した舞台、机を組み合わせたセットや布を使った演出、舞台上で流れる映像も含め、凄まじい没入感に圧倒される対話劇に衝撃を受けたMP編集部。SNSやオンラインコンテンツ中心に日々過ごしている昨今、「リアル」で「ダイレクト」に心を揺さぶられる体験は「舞台」ならではだった。
今作は、「ピーター・パン」と「不思議の国のアリス」の“モデル”となった実在の人物たちのその後の人生――ピーター・パンのモデルと呼ばれたピーター・ルウェリン・デイヴィスと、アリスのモデルとなったアリス・リデル――を軸に、“大人になるとは何か”を静かに、そして容赦なく問いかける作品だ。


1932年、ロンドンのとある書店で開催された「ルイス・キャロル展」の開幕式で、出版社社主になったピーター・ルウェリン・デイヴィス(当時35歳)とアリス・リデル・ハーグリーブス(当時80歳)が出会った。その二人が対話していくうちに、「ピーター・パン」の作者であるジェームズ・バリーと、「不思議の国のアリス」の作者ルイス・キャロルが登場し、そこに物語のキャラクターであるピーター・パン、アリスも登場し……と過去と現実とフィクションが入り混じる多層的な構造を見せながら進行する今作。ファンタジーのきらめきの裏側にある現実、喪失、孤独を痛いほど感じさせられる内容に、胸が詰まる思いだった。

そんな中で、レジナルド・ハーグリーヴス役とマイケル・デイヴィス役を一人で担った簡 秀吉さんの存在感は、今作の大きなアクセントだった。レジナルドとして客席から颯爽と登場した瞬間のまばゆさ。舞台に光が差し込んだかのような華やかさと生命力で空気を一変させる。とりわけアリス・リデルにプロポーズするシーンでは、不器用ながらも真っ直ぐに想いをぶつける姿が胸を打つ。その直球さはどこか滑稽で、しかしだからこそ愛おしい。“笑い”を巻き起こしながらも、彼の本気が伝わる名場面となっていた。

一方、マイケル・デイヴィスとして見せた演技は対照的だ。繊細で、今にも消え入りそうな儚さをまとい、少年の純粋さと傷つきやすさを丁寧に表現。その視線や佇まいからにじむ孤独は、観客に静かに染み込むように届いていた。同じ俳優とは思えない表現の幅で、簡 秀吉さんは光と影の両極を体現していた。

ピーター・パン役の青木 柚さんは、永遠の少年の無垢さと残酷さを同時に表現し、無邪気さの裏にある“成長できないこと”の苦しみを浮き彫りにした。不思議の国のアリス役の古川琴音さんは、少女時代のきらめきと大人になった後の現実との間で揺れる複雑な心情を、凛とした佇まいで体現。笑顔の奥に潜む葛藤が印象的だった。
ピーター・ルウェリン・デイヴィス役の劇団EXILE・佐藤寛太さんは、子どものままでいたい気持ちと、現実の大人として生きる苦しさの間で繊細に揺れるピーターを抑制の効いた演技で見せ、観客を釘付けにしていた。アリス・リデル・ハーグリーヴス役の麻実れいさんは、過去と向き合いながらも前に進もうとする強さを静かな熱量で表現し、観客に強い余韻を残した。
本作は決して軽やかな物語ではない。喪失や後悔、取り戻せない時間と向き合い続ける重厚なドラマだ。「大人になるとは?」――その問いに明確な答えは提示されないがゆえに、観劇後もなお、胸の奥で問いが響き続ける作品――それが、舞台『ピーターとアリス』だった。
<公演情報>
舞台『ピーターとアリス』
作:ジョン・ローガン
翻訳:早船歌江子
演出:熊林弘高
【キャスト】
不思議の国のアリス:古川琴音
ピーター・パン:青木 柚
ルイス・キャロル:飯田基祐
ジェームズ・バリー:岡田義徳
マイケル・デイヴィス/レジナルド・ハーグリーヴス:簡 秀吉
アーサー・デイヴィス:山森大輔
ピーター・ルウェリン・デイヴィス:佐藤寛太
アリス・リデル・ハーグリーヴス:麻実れい
【東京公演】
2026年2月9日(月)~23日(月・祝)
会場:東京芸術劇場 プレイハウス
【大阪公演】
2026年2月28日(土)~3月2日(月)
会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ