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13 Aug 2025
13 Aug 2025
lifestyle

あなたにとって〝美〟とは?連載「美を生きる 。」世界的ハイブランドの広告ビジュアルを手がけるフォトグラファー・Junichi Ito

表現の世界で生きるプロフェッショナル一人ひとりに宿る〝美〟の哲学に迫る。

ニューヨークで知った“物撮り”のおもしろさ

名前 Junichi Ito ジュンイチ イトウ
肩書 フォトグラファー
Instagram@junichiito

1980年 東京都世田谷区で誕生。
1999年 ハリウッド美容専門学校入学。
2001年 卒業後、下北沢のサロン入社。10カ月で退職し、渡英。語学学校へ通いつつ、ヨーロッパを放浪。
2003年 帰国後、目黒区のスタジオにアシスタントとして入社。カメラを学ぶ。
2005年 スタジオを退社し、アメリカ・ニューヨークへ。
2009年 プロダクトフォトグラファーとして認められるように。
2014年 エージェントを変えたことで、ハイブランドからの認知が高まる。

“美”を形にする、5つのヒント
Q1 あなたにとっての“美”とは?

ほとんど完璧に見えながら、どこかに余白を残しているもの。

Q2 仕事で大切にしていることは?
人を幸せにすること。

Q3 創造力の源は?
興味や不思議だと思ったことを深く掘り下げる。

Q4 センスを鍛える方法は?
心に余裕をもち、なんでも吸収できる自分でいること。

Q5 ハマっているモノ・コトは?
サーフィン。

努力と結果は比例しない。
ニューヨークで認知され続ける秘訣は“健康なメンタル”。

下部にJunichi Itoさんの作品を小さく紹介したが、作品の魅力は、ぜひ彼の公式ホームページで体感してほしい(https://www.junichiito.com/)。物の細かなディテール、鮮烈な色彩、そして画面越しに伝わってくる圧倒的なエネルギー。彼のプロダクト作品は、使い古された言葉ではあるが、「物に命が宿る」ような生命感がみなぎっている。しかし、そんな彼が、かつて美容師だったことを知る人は少ない。Junichi Itoさんの〝美〟の哲学を探ると共に、その歩みを聞いてみた。

美容師から写真家へ
夢を追いかけ渡米

「学生時代、おしゃれが好きだったものですから美容の道へ。専門学校を卒業し、ドレッドヘアなど特殊ヘアを得意とするサロンに就職したのですが、海外への憧れが強く、サロンを辞めて、英語を学ぶため、イギリス・ロンドンへ。そのときは、美容師として世界に出ようとは思いもしませんでしたね。なぜか、美容師ではない道を模索していました。ロンドンを拠点にヨーロッパを放浪しているときにカメラに興味をもち、帰国してから、撮影スタジオにアシスタントとして入社。カメラの基礎を学び、2年後、アシスタントを卒業した翌月にはアメリカ・ニューヨークへ。英語もろくに話せませんでしたが、何とか日本人カメラマンのアシスタントにつくことができました。そのカメラマンが物撮り専門のカメラマンで、ライティングでさまざまな表情をつくりだす〝物撮り〟に興味をもったんです。美容の撮影ならモデルさんや髪型がメインですが、商品がメインの物撮りもそう大きな違いはないと思っています。いい角度、いい瞬間、どうアングルを付けるか、ライティングを導き、シャッターを切るまでのアプローチは同じ。ただ、フレームのなかにどう収めるか、何を足すかを考える感覚は、絵を描いていく感覚に似ているかもしれません」

変わらない芯と、
変化に向き合う感性

「今年でニューヨークに来て20年。あの頃、渡米した仲間はみんな帰国してしまいました。戦い続けているという意識はありませんが、努力と結果は比例しないことを肝に銘じ、常に新しいものに敏感であり続けるよう意識しています。新しいもの、美しいものに気づく感性と、それを吸収できる自分をつくり出しておく。そのためには、心に余裕がないとダメ。メンタルの健康が新しいものをつくり出すためにいちばん大切なんじゃないでしょうか。僕にとっての〝美〟とは、ほとんど完璧に見えながら、どこかに余白を残しているもの。そして、そのすき間を埋めるのは、受け手の感性や想像力なのだと思います。
実は今でも髪を切っているんですよ。もし、震災や9・11のような災難があったとき、カメラで身を助けることはできませんが、ハサミさえあればどんなときでも生きていける。カメラは、あくまでも平和が土台にありますが、難事においては、ハサミは最強の武器なんですよ。そんなことを考えながら、いつも家族の髪を切っています」

落ち着いた佇まいで穏やかに語るJunichi Itoさん。その言葉の端々に、静かに燃える強い覚悟がにじんでいた。

My photograph
作品が醸し出す“美”

何のツテもなく渡米したが、知人が増えれば増えるほど仕事が増え、結果を出すことで、仕事の質も上がっていった。作品に込められた“美”が認知されたのだ。

Work Buddy
みんなが楽しく仕事ができる現場づくりを考える

撮影現場にもよく連れて行く、愛犬チョコ。犬がいることが現場がなごむという。仕事で大切する「人を幸せにする」は、現場でみなが楽しく仕事していることも含まれるのだ。

My Hobby
ニューヨーク近郊のサーフスポット

日本でも行っていたサーフィン。フォトグラファーとして認知されるようになってからサーフィンを再開。自宅からクルマで15分ほどの距離にあるサーフスポットにて。

photo:Sano Kazuki(CHIYODA STUDIO) text:PREPPY

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