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13 Sep 2025
13 Sep 2025
lifestyle

あなたにとって〝美〟とは?連載「美を生きる 。」さまざまなプロフェッショナルに影響を与え続ける“美”の第一人者、ビューティディレクター/ヘアメイクアップアーティスト・上田 美江子

表現の世界で生きるプロフェッショナル一人ひとりに宿る〝美〟の哲学に迫る。

感性の豊かさは自分自身の感動経験の量に比例します

名前 上田 美江子 うえだみえこ
肩書 ビューティディレクター/ヘアメイクアップアーティスト
Instagram@miekoueda1958

1958年 神奈川県厚木市で誕生。
1976年 資生堂美容学校(現・資生堂美容技術専門学校)入学。
1979年 資生堂入社。ビューティーディレクション研究所課長などを歴任。
1986年 SABFA設立に携わり、SABFA講師も務める。
1995年 JHAロンドン審査員優秀賞受賞。
2009年 東京都優秀技能者「東京マイスター」都知事賞受賞。JHAプロフェッショナル審査員就任(2021年まで)。
2014年 資生堂を退社し、個人事務所『MU(エムユー)』設立。
2015年 京都国立博物館琳派400年記念、コシノジュンコ氏ショーのヘアメイクチーフに。上田塾スタート。

“美”を形にする、5つのヒント
Q1 あなたにとっての“美”とは?

麻薬(麻薬を試したことはありませんが(笑))

Q2 仕事で大切にしていることは?
純度。テーマへの思いが純粋であるほど作品は強くなる。

Q3 創造力の源は?
崇高なものへの憧れ。

Q4 センスを鍛える方法は?
美しいものにたくさん触れ、ときめきに正直であること。

Q5 ハマっているモノ・コトは?
映画『国宝』

いい作品とは、準備と訓練を重ねたうえに
“ふと舞い降りる”もの

資生堂のエースとして第一線を走り続け、ヘアメイクスクール「SABFA(サブファ)」設立にも貢献。退社後は、独立し、日本文化と〝美〟を融合させた独自のスタイルで国内外に影響を与えるヘアメイクアップアーティスト、上田美江子さん。「美とは何か?」、その問いに真摯に向き合い続けてきた彼女の〝美〟についてうかがった。

基礎を固め、キャリアを築いた日々

「資生堂入社後、インターンとして配属された付属美容室で徹底的に基礎を学びました。ヘアメイクアップアーティストとして一通りのことができるようになるには、少なくとも10年はかかるでしょう。心身ともに厳しい1年でしたが、経験の蓄積が臨界点を超えたとき、技術が体に染み込むことを確信した時間でもありました。その後、オーディションで撮影アシスタント枠を勝ち取り、海外の大型コレクションへ帯同。広告やヘアショーなどにメインスタッフとして携わるなど順調にキャリアを築いていましたが、33歳のとき、妊娠・出産。このときばかりは、キャリアを中断しなければならない状況に焦りました。でも、『自分は女なんだから』と覚悟を決め、立ち止まることに。ただ、創作への情熱だけはむしろ増していて、妊娠中に仕上げた作品(下記「My Best」の写真)は、立ち止まる焦りやクリエイションへの想いが募りに募った極限で仕上げたもの。思い入れが強く、これを超える作品は難しいと今も感じています」

日本文化と出会い、生まれた〝盆栽ヘア〟

「納得できる作品というのは、数多くつくればできるものではないし、努力してできるものでもありません。無理矢理つくろうとしてもつくれませんが、キャリアがあれば絞り出すことは可能です。準備と訓練を前提に、〝降ってくる瞬間〟があるんですよ。映画や旅など非日常の刺激が閉ざされた扉を開き、アイディアが舞い降りる。本当にふと降ってくるんですね。
若い頃は西洋の文化に憧れていましたが、40代を過ぎた頃から日本文化の美しさに興味をもつように。日本の結髪を学ぶと、知れば知るほどその繊細な美意識に引き込まれていきました。そんなときにつくったのが、盆栽のようなヘアスタイル(下記「My Work」の写真)。この作品が、ファッションデザイナー、コシノジュンコさんの目に止まり、琳派※1誕生400年記念として京都国立博物館で行われたファッションショーのヘアメイクチーフを務めることに。〝盆栽ヘア〟の名付け親はコシノジュンコさんなんですよ」

〝美〟は、生きるためのエネルギー

「私にとって〝美〟は麻薬のようなもの。麻薬を試したことはありませんが、美しいものに触れると痛みすら和らぎ、別世界へ連れて行ってくれる媚薬となります。それくらい、私にとって美しいものを見ることは、生きていくうえで欠かせないエネルギー。だからこそ、〝美〟を求めて生きてしまうんですよ」

積み重ねた時間が育てた〝美〟への想い。その想いの強さがそのまま作品へと昇華されていくのだろう。

※1.17世紀初頭、尾形光琳をはじめ、独特な装飾性と華やかさをもつ絵画・工芸の流派のこと。

美容人生45周年を記念してイベントショーが開かれ、上田塾の生徒によるファッション&ヘアショーが行われた。

My Best
究極のジレンマのなか

photo:Mori Yutaka

男性と同じにスタートしても、妊娠出産で5年は遅れを取ってしまう……そんなジレンマのなかつくりあげた作品だからこそ、思い入れの強い作品となっている。

My Work
40代を過ぎて知った日本文化の魅力

photo:Kanazawa Masato

上田さんを象徴する作品“盆栽ヘア”。日本髪を学び、仕上げたヘアスタイルにいち早く興味を示したのは、ファッションデザイナーのコシノジュンコさんだった。

My Favorite
道を極める美しさに感動した映画『国宝』

©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

最近心を奪われたのが映画『国宝』。「職人気質が好き。どんな道でも極める姿が美しい」と、ひとつの道を極める人間の気概に強く共鳴したそう。※東宝系にて上映中。

photo:Yasuda Yuko text:PREPPY

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