表現の世界で生きるプロフェッショナル一人ひとりに宿る〝美〟の哲学に迫る。
南木曽ろくろの職人である、祖父から学んだ審美眼

名前 松山優介 まつやまゆうすけ
肩書 フォトグラファー
Instagram@yusuke.matsuyama
1980年 長野県木曽郡で誕生。
1996年 高校1年生、祖父から一眼レフをもらう。
1998年 愛知大学法学部入学。大学3年生、美容室でアルバイトを始める。
2002年 大学卒業後、愛知・名古屋の写真スタジオに勤務。
2005年 上京し、専門学校東京ビジュアルアーツ・アカデミー写真学科夜間学部入学。
集英社スタジオ勤務。(後に千代田スタジオ入社)
妹・松山絵美さんが働く美容室『ドゥーブル』の作品撮りを手伝うように。
2015年 自身が撮影した作品がJHAグランプリを初受賞。
現在に至る。
“美”を形にする、5つのヒント
Q1 あなたにとっての“美”とは?
美しさは笑顔のなかにあるもの。楽しい現場から生まれる作品に“美”が存在する。
Q2 仕事で大切にしていることは?
現場でのセッション感、空気づくり。
Q3 創造力の源は?
美しいものを見続ける環境は、感性や美意識の形成に非常に重要。
Q4 センスを鍛える方法は?
正解のない世界。自分が良いと思うものがセンス。自己肯定感を高め、自分の判断に自信をもつことが大事。
Q5 ハマっているモノ・コトは?
サウナ。
振りすぎず、ど真ん中、
中道にピタリとはめられたとき、
自分に満点をつけたくなる

美容業界のアカデミー賞といわれる「ジャパン・ヘア・ドレッシング・アワード(略称JHA)で、〝優勝請負人〟と評されるフォトグラファー、松山優介さん。本誌でも、確かな技術と審美眼で、多くの美容師がつくりだす〝美〟をファインダーに納めてきた。今回は、そんな松山さんの〝美〟の原点に迫る。
職人魂と審美眼
「僕の祖父が、長野県木曽郡で1200年以上続く〝南木曽ろくろ〟の工房を営んでいるんですよ(右下画像参照)。木地師(木をろくろなどで加工する職人)の祖父の膝に座りながら、木がどんどん形を変えていく様を幼い頃から見てきたことが、僕の審美眼の土台になったと思います。だけど、僕は木地師ではなく、美容師になりたかった(笑)。でも、専門学校はお金がかかるし、田舎の両親の『子どもを大学に行かせたい』という想いもあるので、まずは大学に進学することに。美容室でアルバイトをしながら、当時あったインターン制度で美容師になろうと考えていたら、制度が廃止になって。そんなとき、カメラの道に気づいたんです」

美容室『ドゥーブル』で作品撮りを行うように
「16歳のときに祖父から一眼レフを譲り受け、カメラには興味があったんです。美容師の道が断たれたことから本格的にカメラの道を目指し、大学卒業後、名古屋のスタジオで働き、東京のスタジオへ。写真の勉強をしてこなかったので、写真学校の夜間部で学び直していたとき、妹の絵美が東京・表参道の美容室『Double(ドゥーブル)』に就職したんです。それがご縁となり、ヘアスタイルの作品撮りを行うように。いうまでもなく、『ドゥーブル』は山下浩二さん率いるプロフェッショナル集団。スタッフと喧々諤々やり合いながら、明け方まで撮影していましたよ。相手が山下さんであっても、自分の審美眼を信じ、『良いものは良い』ときちんと伝えてきました。それができたのは、職人だった祖父を見てきたから。相手が熟練の職人だとしても、自分がへりくだってはダメ。相手の技術をリスペクトするからこそ、対等な立場でディスカッションすることが大切なんです。これはモデルさんに対してもそう。撮影現場ではジョークを飛ばしてばかりですが、常にモデルの表情に目を配っています。ピリピリした空気では、いい表情は生まれませんからね」

自分の個性ではなく、目指すは〝中道〟
「〝美〟とは笑顔から生まれるものだと思っています。美しい瞬間は楽しい現場から生まれるもの。現場は楽しくなきゃダメなんです。正直、僕の作品に自分らしさってないと思います。弟子が変わればライティングも変わるので、僕の作品の個性って測れないんじゃないかな。僕が目指すのは中道。振りすぎず、ど真ん中でピタッと決められたとき、僕は自分に満点をあげたくなりますからね」
中道を目指すからこそ、生まれる〝美〟。だが、中道を究めることはとても難しいことだ。そのシンプルな美学を目指すことこそがフォトグラファー松山さんのすごさなのだろう。
My Roots
祖父は、1200年続く南木曽ろくろの職人

柔らかな木肌、美しい木目を生かして仕上げる南木曾ろくろ。木地師である祖父のつくり出す木工細工をいつも目にしてきたことが松山さんの審美眼の土台となった。
My Policy
楽しい現場づくりもフォトグラファーの仕事

撮影中は常にジョークを飛ばし、どんなにシビアな現場も柔らかい空気に変えるムードチェンジャー。そんな現場の安心感、安定感が多くの美容師に支持される秘訣。
My Work
“リアルトレンドアワード”の作品撮りも

プレッピー&メンズプレッピー誌で行われている誌上コンテスト、“リアルトレンドアワード”の撮影も松山さんが行う。写真は、『PEEK-A-BOO』 栗原貴史さんの作品。
photo:Sano Kazuki(CHIYODA STUDIO) text:PREPPY