PREPPY

12 Jun 2025
12 Jun 2025
lifestyle

「Double」内田由美さんの、人生を変えた映画とは? 【シネマ・サロン第十五夜】

人生を変えた映画、感性を磨いてくれた映画、最高に笑わせてくれた映画。受けとり方や楽しみ方は人それぞれあなたの親愛なる映画について教えてください。

T O D A Y:P a r i s , T e x a s

1984 年/西ドイツ・フランス/ 146 分
監督:ヴィム・ヴェンダース
主演:ハリー・ディーン・スタントン

映画が教えてくれる、感性の在処。ヘアスタイリストという仕事に音と映像が与えるもの

初めて観たのがいつだったかはっきりとは覚えていないのですが、何度も繰り返し観ている作品です。特に印象的だったのは、10 年以上前、ヘアショーでこの映画の音楽を使ったときのことでした。オーナーの山下が「耳と目はつながっている」とよく言っていて、音楽と映像が自然に溶け合う感覚を強く意識するようになりました。『パリ、テキサス』は、ただ音楽がいいだけでなく、絵作りや光の使い方、服装や髪型まで、あまりにもすべてが素敵で、定期的に観たくなるんです。観るたびに新しい発見があり、同じ作品なのに、そのときの自分の感覚で見え方が変わるのも魅力のひとつです。映像と音のバランス、間の取り方、風景の音の扱い、細部に至るまで「美」を感じることができます。

映画の冒頭、ライ・クーダーのギターの音が流れ始めるだけで、すっと作品の世界に引き込まれてしまう。あの静かな始まりの吸引力には、何度見ても鳥肌が立ちます。言葉が少ないのに、感情がしっかり伝わってくる。そのことに驚いたのを覚えています。ライ・クーダーの音楽は歌詞がなくても「語っている」と思えるほど、音だけで心情を表している。それがとても印象的でした。

ヴェンダース監督の作品は他にも好きなものが多いのですが、自分が「いい映画だったな」と感じるときって、たいてい「音楽も最高だったな」って思うんです。私にとって、映画と音楽は切っても切れない関係ですね。いい音楽が流れていると、「この曲、サロンの朝の時間に合いそうだな」なんて、ふと考えてしまったりもします。

学生時代やアシスタントの頃は、オーナーや先輩と話す中で映画や音楽の話題がよく出て、影響を受けたことも多かったです。昔はサブスクもなかったので、教えてもらった作品はすぐにTSUTAYA で借りて観ていました。自分ひとりでは出会えなかったものを、誰かの一言で知る——その経験が今の自分の「引き出し」になっています。

映画ってやっぱり感性を広げるものだと思うんです。いろんな作品を観ておくことで、自分の中にアイディアのソースがたまっていく。スタイルをつくる仕事において、それはとても大きな力になると思います。『パリ、テキサス』は、私にとってそんな感性の根っこを育ててくれたような作品です。映像と音、その調和や感じたイメージを、これからもスタイルづくりの中で大切にしていきたいと思います。

illustration: gramas text: Men’ s PREPPY

stylist

Double 内田由美

うちだゆみ。『ドゥーブル』スタイリスト。山口県出身。

pickup

Featured Articles